ピコット探し

 『自然の鉛筆』の図版のうち、被写体を直接感光紙上に置いて露光した写真が数枚ある。例えば、植物の葉、レース、リトグラフのコピー、印刷ページの複写がそれである。すでに別のところで書いたように、これらの写真を含めた数枚の写真がこの写真集のなかでコピーの系列とでもいうべきものを構成し、それが写真集の縦糸になっている。
 植物の葉とレースの写真について考えていると、かなり複雑な関係がここでは織り上げられていることが分かる。
 アームストロングによれば、植物の葉は自然の事物からのイメージであり、レースは人工的製作物からのイメージであるゆえ、前者と後者がある根本的な差異(自然と文化)をなしているという。そもそも『自然の鉛筆』が、自然の力のみによって自然のイメージを自ら作り出す写真を強調した写真集であることを考えると、この差異は見逃すことはできない。
 しかし、その製法から考えてみれば、オリジナルの対象を紙の上に載せて一度露光しただけでポジイメージが得られるレース写真の方が、オリジナルには近いことになる。
 さらにネガを基にしたプリント製作のことを考えてみると、事態は複雑になる。どちらの写真もネガの製作にはフォトジェニック・ドローイングを用いたことが知られている。植物の葉はこのネガに再度同じ工程を加えることでポジ・イメージになる。レースの場合は、ネガそのものでポジイメージ(黒い背景に白い図)ができあがるが、それをプリントするには、同じ工程を二度繰り返さないとならない。最もオリジナルに近いものが二度コピーを繰り返されている――トルボット自身は黒いレースイメージは正確な幾何学的パターンを表象しているがゆえに何の問題はないと述べている。
 レースの写真をよく見ると、その幾何学的模様に植物の花らしき柄が手で織り込まれていることが分かる。またその下縁には、ピコット(ピコ)という縁飾りがつけられている。というわけでレース編みの歴史をひもとく。ピコットはリングやチェーンについている飛び出した輪っかであり、それ自身装飾的役割を果たすと同時に、別のレースとの編み合わせの部になる箇所だそうである。