ポピュラー・モダニズム

 例えばハリウッドの文脈にのったスピルバーグの市場での成功ばかりを見るのではなく、他方で『ショアー』が芸術映画というジャンルとして限定された興行的成功を収めたこと、これを『シンドラー』にたいして高踏的反応を示す批判的知識人たちはいかに説明するのか。実はこの言説の磁場にはモダニズム対マスカルチャー、高級と低級、その他の二項対立が強烈に作用している。ここに欠落しているのは二者のあいだに偏在するさまざまな表象の競合であり、広義のエステティック〔感覚的〕経験と言説が絡み合う空間への注意なのである。そうして文脈において『シンドラー』の受容の力学はくみとられねばならない。こうした議論であった。もちろん、彼女の分析のいくつかは批判に対する反批判として弱い部分もある。あとがきにもあるように、戦略的な言説の磁場への臨機応変な介入として捉えておくべき部分もある。しかし、ポピュラー・モダニズムという視点、モダニティの複数性や複合性を指摘する立場は興味深く読めた。