人形の間

■人形の間
 以前にも少し言及したが民俗博物館の展示をめぐる論文を訳出しはじめる(Sandberg「Effigy and Narrative」)。
 民博のジオラマ的展示を19世紀末の視覚文化のひとつとして捉え、他の視覚メディアとの関係に目配りをしつつ、当時の観客への展示の作用を具体的に明らかにしたもの。
 ただし、その核は、人形をある背景のなかでどのように並べるかという方法が、詳しく論じられているところにある。これはジオラマや蝋人形館での人形の配置や受容者への作用の話にも結びつくであろう。博覧会での展示や初期映画の観客と交差させた議論もつかえそうである。
 また、人形を論じる時に人形というフェティッシュに向かうのではない、人形の間に流れている欲求や磁場を捉えるためにも有益かもしれない。人形の表象、とくに写真をめぐる議論を読むと、しばしば人形というものに照準が合いすぎて、その周囲に張り巡らされた力学が扱われていないことがある。昨年観た蝋人形の展示形式でも気付いたことだったが、人形をどう配置するのか、観客がそのスペースにどのように足を踏み入れる(ない)かは、世紀末の集合的な視覚文化を考えるうえで案外重要だと思う。
 そして、こうした展示物に添えられたガイド本による記述がおさえられているところも興味深い。純粋に見るだけでなく、文章によって見ることがある程度統御されていたということ、これも当たり前のことだが、テクストの介入という点で興味深い。
 最後に、スカンジナヴィアというロケーションもなかなか面白い。他のヨーロッパ諸国に比べて近代化が遅れたため、かえって急激な近代化の進展が生じ、緩やかな進展では気付かなかった近代化のさまざまな現象が見えてくる。早回しで観たがために見えてしまうもの。 とはいえまだ三合目。

■手のひら写真
mixiの紹介写真、写メについての写真論に役立ちそうである。
正方形のフォーマットの小さい手のひら写真の表面での微妙なニュアンス。