雲のパノラマ/凪のパノラマ
■パノラマ報告作成
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『雲』の予告編はここで見ることができる。
メスダハのパノラマをずっと眺めているとその光をもう一度見にいきたくなる。
それはさておき、300枚原稿のラストにかかりつつあって、メスダハのパノラマの異常さについて考えている。
まずは空。インスブルックのパノラマのあの険しい山並みに縁取られた夕刻の空でも、アルトエッティングの磔刑パノラマの俄かにかきくもった空でも、トゥーンのパノラマの底なしの青空でも、ブルバキのパノラマの一面真っ白な考えるだに重い空でもない。
画面の半分を占めた大量の雲が青を背景に微妙な色調と形状の変化を見せて折り重なる空。地平線も水平線もほとんど隠されることはなく、どこまでも視線を引き込んでは押し返す。雲のパノラマ。
次に地上に目を移してみよう。
スヘーフェニンゲンのパノラマは奇妙である。
ブルバキのものも、トゥーンのものも、二つの引き込むポイントがあり、引き込んでは手前へ押し出してくる、つまり寄せては返す波のような効果が考慮されていた。たしかに浜辺の両端にある小高い丘に立つホテル、その前景にある砂丘の丘陵は地平線へと私たちの視線を引き込む引き込みポイントである。
ところが、砂浜に目をやると左右に牽引されたうえに、さらに目の前に広がる水平線まで折り重なる船のマスト、白い波、色面としての筋状の海面、水平線下ぎりぎりを飛ぶ鴎、こうした要素が奥へと引き込んでいくのである。砂浜だから当然と言えば当然だが、奥行きが倍増され、寄せては返す波がさらに複雑になる。
空と海のつなぎ。
居並ぶ漁船のマストの先は――砂丘の頂きという視点を採るために――水平線を超えない。濃い一筋の青で描かれた水平線までの余地。それは、画面の下半分から上半分の空へと受け渡すための凪のような部分なのではないだろうか。
再び空に視線は向かう。雲の面という面が視線を手前に押し返してくる。
岸辺の漁船や街の赤い屋根の重なりはたしかに動的でにぎやかな面の立ちおきを促している。しかし、画面の全体のトーンと構図上の静けさが全体を覆いつくしている。
今回他の海景パノラマとの比較はできなかった。
海景パノラマにおける船酔いは、都市景観のパノラマや戦争パノラマとは異なる独特な凪の契機をもっているのかもしれない。
そんなことを書いていて思う。