親指通信と親指画像

■モバイルのヴァリアント
 昨日の項で挙げた論集のなかのthe mobile phone as technological artefactを読む。
 列挙型の論文(レポート)ではあるが、基本的な事項の確認にはなる。
 とくにケータイの使用者による当初見込まれていなかったさまざまな用法、ヴァリアントが並べられている。以下主旨をざっとまとめると、、、
 ケータイは当初通勤、散歩、旅行等の戸外に使用者がいる場合の通信利用を意図していた。そこには実は、個人限定の使用は見込まれてはいなかったという。だが、周知のようにケータイは、しだいに個人に密着した用法へと転化し、さらには屋外のみならず屋内でも主なコミュニケーション手段となり、そのうち固定電話を凌駕することになり、ついには親密な私的な領域と公共的次元をダイレクトにつないでしまうことにもなった。これに並んでTVなどの他のメディアとも相互に作用を及ぼすことになる。
 比較的若い世代によるケータイの用法の変容も並べられている。他の手段の代替として簡単な内容の短いテクストを送るツールのはずが、速度と頻度と記号の組み合わせが過剰になり、非言語的メッセージも比重を大きく占め、着信のみを残す連絡手段が当たり前になり、ランダムな数字を打つことで偶発的なコミュニケーションを求めることにもなれば、自己紹介にケータイをまず使用する儀礼が発生することにもなった。またその身体との近さから、ある意味で装飾品のなかのひとつに含まれる美的側面をそなえるまでになる。

 肝心の読みたい部分があっさりと片づけられる。それが画像コミュニケーションの部分。これを補う論文として次を読む。

■プリクラ論
 以前紹介したエドワーズ&ハート『写真、もの、歴史』に収められたプリクラ論。
Photographs Objects Histories: On the Materiality of Images (Material Cultures)
…その前にpurikuraという横文字で検索する。冷静な文体とは対照的なプリクラブースでの盛り上がりぶり。この論文も同じように筆者のプリクラが資料としてついている。
 プリクラはいちおう写真である。当初アトラスが用途として意図していたのは家族での撮影プリントであったという。それがどういうことか数々のゲーセンや遊戯場に設置され、主に高校以前の女子同士が複数名で写りこむヒット商品になった。そうしたプリクラの発達史を追い、社会学的に「かわいい消費」や「shojo」文化の観点から議論したというのがこの論の概要。
 つかみだせるポイントのいくつか。まとめてみよう。

 プリクラ写真を構成するのは被写体と背景である。被写体となるパートナーの選択と同じくらい背景の選択が優先されることもある。もうひとつの重要な要素がフレーム。これは装飾的な役割を果たすが、その種類はキャラクターから芸能人にいたるまで多様を極めており、その枠の中に入り込むことが醍醐味のひとつである。もちろんシールの数や画像の形状、使用できる色の種類やトーン、照明のぐあいには変化が生じているし、フレームの更新はつねに行われている。ブースが設置される場所も観光地を中心に多様化している――神社仏閣のプリクラはお守りシールにも転用できるそうな。これがまず画像の内容ということ。
 ふたつめのポイントがシールとしての用法。プリクラは、プリクラ手帖に貼り込まれることもあれば、名刺に貼り付けられることも、恋人のケータイに貼られることも、飲み屋のボトルや旅館の宿帳にも、ノートやボールペン、学校の答案にまで貼り付けられることがある。あるいは身の周りの何にでもプリクラを貼り付ける子どももいるし、絵はがきに貼る旅行者もいる。友人や恋人を募集する自己宣伝として雑誌に掲載される場合もあるし、エンコウ相手の募集にも、気に入らないひとの中傷を目的として貼付される場合がある。
 みっつめが、これとよくにたフォトブースとの違いである。同定用の眼差しを内に折り返す視線とは違い、プリクラの視線とは横並びになった複数名の同級生や同性である「私たちへの眼差し」である。公共の空間でのビニールのカーテンに仕切られた濃密な狭い、人口過剰の密着したスペース、そこではじめて培われる眼差し。
 よっつめが、他の「かわいい」消費とは違い、客である被写体が参与して像を生み出し、自ら消費するという閉じた回路が成立していることである。
 以上、簡単にまとめてみた。これ以後のプリクラブースの発達はさらに追う必要はあるが手際よくまとまった論文。ただし、この論に欠けているのは、文字の書き込みの問題と交話的機能の強調だろう。それについては西村氏が『電脳遊戯の少年少女たち』で確か簡潔にまとめていたはず。

以上、親指もの二点。

■心霊映画
の十番勝負がようやく終了する。走馬灯のように心霊名場面がエンドロールで駆け巡る。
十番の内容は以下の通り。
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いずれもホラーファンにとっては怖くないものばかりだが、映画として怖い映画。