レディース・カメラ

■ものカメラ3
 スパイカメラとして知られるミノックスを語る言葉は多い。例えばここここでは、「原因不明の男の遺伝子」ゆえのスパイカメラへの「卒倒」するような興奮が伝えられている。なるほど。
 
 少し迂回してみよう。スパイには女スパイもいれば、女性への眼差しを利用したスパイ・カメラもあるだろうから。
  
 最初のものは木製ハンドバックカメラ。名前はランカスター・レディース・カメラ。その隣がハンドバッグに装填されたカメラ(1926年)。女性の小物がおそらく視線はそこに向かわないであろう男性を狙う。
 同じくレディースものとしても使用されうるカメラとしては、指輪カメラがある。装身具としてのカメラ。これはいかにも気づかれそうな形状だがいざという時はメリケンサックにも使えそうな気もする。
  
  
 そして、下段左が「コンパクト」カメラ(おそらくドイツ製1950年代後半)。鏡をあげて口紅を塗り、ファウンデーションをつける道具に見せて、口紅型ケースからフィルムを取り出し、カメラに装填してターゲットを撮影する。最後のものはそれがメイクセット箱(ヴァニティ・ケース)にまで展開したもの。その名はフォトヴァニティ(アンスコ社、米)。ケースを閉じた状態で外側から操作可能だという。きりりとルージュひいたあとにおもむろにターゲットを狙うのか、それともメイキャップの途中と見せかけて、そのメイキャップ作業中ゆえの視線の散らしによって相手を捕らえてしまうのか、それは分からない。
 そもそもきらめく装身具には視線をはねかえしてしまうという特性がある。ここらへん、視線の関係から、もっと追いかけてみることもできるかもしれない。
 以上、いかにも男の遺伝子的ものカメラをはみだしてみる。次こそ煙草とものカメラ。


■心霊関係資料土産
 未来社の方に、ミクシでご連絡をいただいた心霊捺印写真の記事掲載の『未来』をいただく。
 橋本氏の「「幽霊」の指紋をめぐって」。
 20世紀初頭になぜ霊媒師がこのような証拠を拵えたのか。そこには指紋と写真をめぐる複雑な関係がある。正面と真横からの司法写真は、セクーラなども言うように、その欄外の補足データや画像上のグリッドやそもそもの身体の測定値の記入なくしては不安定であり、それゆえに指紋へとその同定手段の主役を譲っていくことになる。つまり霊媒師は証拠としての客観性の担い手に指紋を選んだというわけである。
 指紋の不気味さについてふと付け加えられた結びの言葉が、気が利いている。

 しかし誰のものかわからないということなら、このような特異な指紋に限らずとも、どんな指紋に対しても言えることではないだろうか。どれほど親しい人間の指紋であっても、そこにその人の面影を見いだして懐かしむなどということがありえないのは、指紋とはそもそも、誰のものでもないからだ。

 指紋は反復して初めて同定に役立つ。そうでない指紋はすべて「幽霊の指紋」なのである。
もちろん、心霊写真論で書いたように、この指紋というインデックスをさらに撮影した記録写真の存在がある。それをどう考えるべきなのかと問うこともできる。たとえば、幽霊の「幽霊」としての指紋を取り押さえるための写真という話もできそうな気がする。写真の安定性と不安定性は同時的なものであり、その意味での複数性も考えてみたい。
もうひとつ心霊土産をもらったのだがこれもまた明日以降。