ゲーム空間の分類(承前)

■ゲーム論 空間的分類

7 独立して運動する平面のレイヤー状の構造の画面
 例としては『ザクソン』、『スーパーマリオブラザーズ』が挙げられる。相互に独立して運動する互いに重なり合う平面のレイヤーからなる空間がここでは意図されている。前面のレイヤーはプレイヤー=キャラクターを包含し、後方のレイヤーは背景を含み、前景よりもゆっくりとした速度でスクロールして、奥行きのイリュージョンを生み出す。
 こうした構造は、図と地の関係がさらに複雑になる場合もある。たとえば『ワリオランド』の場合は、ひとつの平面から別の平面にジャンプすることが可能である。
 総じてこうしたスクロールするレイヤー状画面は、三次元的効果も生み出す。
 またこの構造は、舞台の背景画が生み出す効果にも、セルアニメーションのレイヤーにも、映画やヴィデオの構図構成にも、天気予報の天気予想図の前の予報士という二つのレイヤーの重なりとも類似した構成であると言われる。

8 Z軸上での運動を可能にする画面空間
 これは、バーチの第五の分類に関連付けられつつ議論される。カメラの背後ないしは観者の手前の空間を含意する構造のことである。例としては、『テンペスト』『スターシップ』、『ナイトドライバー』『バトルゾーン』。

9 ひとつのスクリーンに同時に複数の非隣接的空間が提示される構造
 別々の視点から見た隣接しない空間が画面に含まれる構造。2つの場合、その各々が各プレイヤーに属していることが多い。例えば、『ハイ・ヴェロシティ』『スパイVSスパイ』『ファイナルラップ』『ヴァーチャルレーシング』等など。
 これは映画における分割スクリーンと比較することもできる。分割された画面間で観者の注意を相互に喚起し競合するという点では確かに似ている。しかし、両者の差異は、プレイヤーによるインタラクションやコントロールということにある。

10 インタラクティヴな三次元的環境
ここで比較されているのは古典的ハリウッド映画である。空間やその中の対象が複数のアングルや視点から見られ、それが繋ぎ合わされて物語世界が十分一貫させられ、その世界のなかをプレイヤーが進んでいくことができるようになっている。『ミスト』を例に挙げておけばよいだろう。

11 図式的か具体的なマップがもうひとつ画面に付けられている構造
 複数画面であるという点では9に近いが、オンスクリーン、オフスクリーンの空間を含めた全体がマップとして画面に組み込まれているということ。

とまあ端折った部分は多いが、大まかなまとめ。もっと的確なまとめは、もうすぐ出る神大の『芸術学論集』の吉田氏の論で読むことができる。
 私が関心をもったのは、映画や写真(やアニメーション)などの映像の文法が参照され、これらとの比較を通じてヴィデオゲームの画面が分類されている点。主観的視点や客観的視点、一人称や三人称、アングルやショットサイズなど、ヴィデオゲームと映画の文法が交差する側面は多々あるのは確かなのにそうしたべたな比較はあまり見ないからである。たたき台として面白い。あえて難点を挙げれば、初期映画から古典的ハリウッド映画へと至る軌道を前提にしている分、著者はその意図がなくてもある種の空間構造の単純さ複雑さのヒエラルキーを生じさせてしまいかねないということ。また、空間構造の分類につねに(ヴィデオ)ゲーム固有のものとしてインタラクションが言及され、それ以上この側面が掘り下げられないのにも不満は残る。
 とはいえ次は時間の分類もまとめておく。